セーケのほぼ毎日コラム

人を酔わせるのは命。

 この言葉は、あるコピーライターがサントリーの広告のために書いたものだ。以来、これ以上のものを書こうと思うのだが、まったく出てこない。考えて、考えて、考え抜いた時に、不意に天からストンと降りてくるのだが、その気配もない。それはそうだ。この言葉は見事なまでに削ぎ落とされている。贅肉がまったく無い。

 しかし、旨いお酒に酔う以上に人は人に酔う。例えばオリンピック。各国の予選を勝ち抜き、出場権を手にした舞台で僅差の戦いに挑んでいく。決勝に残った者だけがファイナリストでは無い。世界中で挑んだ者たち全てがヒーローであり、出場した者たち全てがファイナリストだ。その姿勢。その緊張。鍛錬を重ねた日々を守りプライドに変えたその躍動に釘付けとなり、心が熱くなっていく。それはどんな名酒も敵わないほどの深みに満ちている。

 例えば画家がそうだ。例えば本物の大工がそうだ。職人が、技術者が、医師が、救助隊が、名もなきサラリーマンが、社運をかけた決断を下した経営者が、そして、兵士がそうだ。守るべきものを持っている人に震える。

 人は、人が好きだ。人を引き付けるのは、熱量だ。その命の熱量が人を酔わせるのだ。僕も、酔わせる人でありたい。